理由のわからない直感

東京に部屋を借りようと思ったのは、美大を出て進学や就職もせずにアルバイトをしながら暮らしている時であった。
部屋を借りるためにわざわざ毎月の家賃を払うのであれば、何かできないだろうか。そう考えているうちに、ふと、これまで旅してきた異国の地の風景を思い浮かべる。

朝の市場や昼夜の屋台、スーパーに並ぶ見慣れない食品パッケージや、駅や街を通り過ぎる乗り物の色、道端に置かれた看板や郵便ポスト。
旅行者の目にはどれも新鮮に映るけれど、現地の人々にとっては日常に溶け込んだありふれたものに過ぎない。外から見ればどんなに変わっていたとしても、慣れてしまえば当たり前のものとなる。

異国のもつ独創的な風景は、こうした日常のズレが積み重なって生まれていた。
ならば、生活の中に何か大きく異質な変化をもたらすことで、今までとは違った景色が見えてくるのではないだろうか。
部屋に砂を敷いて暮らすことを思い付いたのは、その時であった。

これまでの人生で、砂に特別な思い入れがあったわけではない。
だけど、部屋一面に砂が敷かれた風景を思い浮かべた時に、理由はわからないけど直感的に心が惹かれていた。
そして気づいたら、「砂が敷ける」という条件のみで物件を探し始めていた。