四畳半に砂を敷く
砂を敷くことができれば、立地や間取りはなんでもいい。そうして部屋を探しまわった結果、「何をしてもいいよ」という寛容な大家さんが所有する古いアパートを見つけることができた。
住所は、東京都渋谷区。
渋谷といっても繁華街からは遠く離れた住宅街で、駅から続く活気ある商店街を抜けた先にそのアパートはあった。
築60年ほどの木造住宅は周囲の建物と比べてもかなり古びており、独特な雰囲気を醸し出す。不動産屋にも「写真よりも実物のほうがパンチがありますよ」と言われたくらいであった。
外観は二階建ての一軒家のように見えるが、壁にペンキで荒々しく書かれた「入口はこちら」という案内に従って進むと、建物の横に枝分かれした階段といくつかの部屋がある。
私は、そのうちの表通りに面した二階の部屋を借りることにした。
四畳半ほどの空間にはコの字型の大きなロフトが付いており、二つの窓からは光がよく差し込む。アパートには他の住人もいるらしいが、隣と真下の部屋は既に廃墟となっており、人が住むことはなかった。
壁や天井の色を塗り替え、フローリングの床に養生としてシートを敷く。砂は、運搬の手間なども考えてインターネットで購入することにした。選んだ砂は、子供の砂場用の砂として販売されているもので、20キロずつ袋詰めにされて部屋まで届けられる。
そして、私は部屋一面に200キロの砂を敷き詰めた。
それから365日、寝るのもご飯を食べるのも、すべての生活を砂の上で過ごした。