もうひとつの地表
砂を敷くと、世界にもうひとつの地表が現れる。
その空白に落ちる声は、私たちにたしかな実感をもたらす。
はじまりは、東京にあるアパートの一室。四畳半の部屋に敷かれた200キロの砂。その空間には現在も人を招き続けており、いつしか人々の内なる声に耳を澄ませ、悩みを解消したり、人生の次なる展開を探る手助けをすることが、私の仕事となっていた。
私たちは、外からの声があまりにも聞こえすぎている。
その声に囚われ自らの声を見失うと、漠然とした不安に苛まれたり、得体の知れない焦燥感に駆られ、最後には自信がなくなってしまう。
けれど、今ここにいる自分自身の声にもう一度耳を澄ませることができれば、それがあたらしい自分を迎え入れるための勇気となる。
砂の部屋がそんな落ちてくる声たちの居場所のひとつとなれたら、とても嬉しいと思う。
だから私は、今も砂を敷ける場所を探し続けている。
新たな場所と出会うたびに、その空間がもつ特性や土地の文脈からインスピレーションを受け取り、砂の部屋をつくっている。
そんな砂と共に過ごした年月が、砂を敷くという身体的な経験が、この人生の地続き上にたしかな実感をもたらしてくれる。
そしてそれが、私が砂を敷く理由になっている。