わかりやすい秘密

2022.12.23 (Fri.)
「わかりやすい秘密がないと、人々は見てくれない。私はそれとどう向き合っていいかわからない。」
それは、私が箱庭をつくったときにこぼれ落ちた声であった。
機会があって、以前から興味のあった箱庭療法にいってみた。
それは砂を使った心理療法で、砂の入った木箱にミニチュアのおもちゃなどを好きなように並べて、小さな世界をつくる。その世界について、セラピストと話をする。
私は、口の広い透明な瓶を手に取り、それをひっくり返して砂の上に置き、その中に樹脂製のきらきらとしたオブジェを入れる。
私はそれを「わかりやすい秘密」と呼んでいた。
この「わかりやすい秘密」とは何なのか。言った私もよくわからなかった。
それは、観光地のような場所であった。そこには、「目に見える神様」と「わかりやすい秘密」があり、それらにカメラを向けている。
私は、その場所に強い違和感を感じていた。私は、この場所に来る人たちのことを、どこか信じていないのではないかと思った。
セラピストに、「この場所がなくなってしまうとどうなるのか?」と聞かれた。
私は、「人々のこの場所への記憶の総量が減ってしまう。そうなると、消えてしまうのではないかという怖さがある。」と答えた。
この場所は、今後どうなっていくのか。

2023.01.07 (Sat.)
「わかりやすい秘密」を「Secrets in Showcase」と訳した。
それは、透明なショーケースに入った秘密。
秘密とショーケース。

2023.02.12 (Sun.)
ショーケースの中の、一見して閉じられた空間にも鍵はある。
ただ外から見て満足するだけでなく、その鍵を開けてくる人を、私は待っている。
以前に私のつくったドロップノートを見ると、「遊ぶことによるキーの解除」と書いてあった。そのショーケースの鍵は、遊ぶことなのかもしれない。それによって、空間はさらに開かれる。
遊ぶことは没入することに結びつく。没入してみないと感じられないことがある。中に入らずに外から見ているだけではわからないこと。
そして、没入感を高める上では、茶化してくる存在が、もっとも面白くないものである。それは、舞台上で演じる人間に「これは現実ではない」とツッコむのがナンセンスなように。
ショーケース、その中は聖域として守られることが大切なんだ。

2023.03.02 (Thu.)
箱庭にあった観光地のような場所と向き合った変遷は、私の中での許しのプロセスのようだと感じた。
そのものは変わらずとも、見え方や捉え方が変わることで、その意味が変異する。
以前の私は、その観光地に対して、戸惑いや嫌悪を感じていた。私がつくった見せ物を、訪れた人たちが消費する場所のように捉えていたから。
けれど、箱庭のなかにつくった観光地、あの場所にいた人は、他人ではなく、自分だったのかもしれない。
秘密にしている相手は、私自身だったのかもしれない。

2023.03.06 (Mon.)
あの場所は、自分のなかにある秘密や神様をみるところ。
”それ”は、自分自身ではあまりにも当たり前すぎて気づかない。
そんな自覚していない”それ”を、ショーケースに入れることで、”それ”が大切なものであったと気づく。

Secrets in Showcase
それは、大切なものに居場所を与えるおまじない。
大切なものは、ちゃんと大切にしてあげないと、大切であったことを忘れてしまうから。
あとがき
意味はあとからついてくる
Meaning comes later
砂の部屋をはじめたきっかけをよく聞かれるのですが、はじめるタイミングでは意味は大してありませんでした。
けれど、砂の上で過ごし、人を何度も砂に招いて話す中で、砂の記憶が集積し、どんどん繋がりだして、今ではそれが運命であったかのように感じられてしまうのです。
そんな風に、意味があとからついてきたのです。
事の意味は、あとからいくらでも書きかえられると気づいたら、これから起こる未知なる全てに可能性を感じられます。
だから、意味を見出すのは未来の自分に任せて、その瞬間に感じた衝動に従おうと思いました。
それが私にとっての遊びだったのです。